私の好きな詩人、アーサー・ビナードさんのトークセッションに参加してきました。歯切れのいい、しかもちょっと毒がある日本語はいつも通り! 鋭い洞察力で、言葉に隠された真実を、白日のもとに「晒し」てくれました。痛快!
たとえば、みんながぼんやり感じてる「絆」って言葉の胡散臭さ。私たちの善意を悪用して、裏で何か誤摩化してるっぽいよね。そんな話のあれやこれやで、あっという間の3時間でした。
その時、アーサーさんが紹介し、朗読してくださった詩があまりにもインパクトがあったので、載せときます。南相馬に住む詩人、若松丈太郎さんが1994年に発表した「神隠しされた街」です。現在は、17年前に予言されていた!?
「神隠しされた街」
4万5千の人びとが2時間のあいだに消えた
サッカーゲームが終わって競技場から立ち去ったのではない
人びとの暮らしがひとつの都市からそっくり消えたのだ
ラジオで避難警報があって
「3日分の食料を準備してください」
多くの人は3日たてば帰れると思って
ちいさな手提げ袋をもって
なかには仔猫だけをだいた老婆も
入院加療中の病人も
1100台のバスに乗って
4万5千の人びとが2時間のあいだに消えた
鬼ごっこする子どもたちの歓声が
隣人との垣根ごしのあいさつが
郵便配達夫の自転車のベル音が
ボルシチを煮るにおいが
家々の窓の夜のあかりが
人びとの暮らしが
地図のうえからプリピャチ市が消えた
チェルノブイリ事故発生40時間後のことである
1100台のバスに乗って
プリピャチ市民が2時間のあいだにちりぢりに
近隣3村をあわせて4万9千人が消えた
4万9千人といえば
私の住む原町市の人口にひとしい
さらに
原子力発電所中心半径30㎞ゾーンは危険地帯とされ
11日目の5月6日から3日のあいだに9万2千人が
あわせて約15万人
人びとは100㎞や150㎞先の農村にちりぢりに消えた
半径30㎞ゾーンといえば
東京電力福島原子力発電所を中心に据えると
双葉町 大熊町
富岡町 楢葉町
浪江町 広野町
川内村 都路村
葛尾村
小高町
いわき市北部
そして私の住む原町市がふくまれる
こちらもあわせて約15万人
私たちが消えるべき先はどこか
私たちはどこに姿を消せばいいのか
事故6年のちに避難命令が出た村さえもある
事故8年のちの旧プリピャチ市に
私たちは入った
亀裂がはいったペーヴメントの
亀裂をひろげて雑草がたけだけしい
ツバメが飛んでいる
ハトが胸をふくらませている
チョウが草花に羽をやすめている
ハエがおちつきなく動いている
蚊柱が回転している
街路樹の葉が風に身をゆだねている
それなのに
人声のしない都市
人の歩いていない都市
4万5千の人びとがかくれんぼしている都市
鬼の私は捜しまわる
幼稚園のホールに投げ捨てられた玩具
台所のこんろにかけられたシチュー鍋
オフィスの机上のひろげたままの書類
ついさっきまで人がいた気配はどこにもあるのに
日がもう暮れる
鬼の私はとほうに暮れる
友だちがみんな神隠しにあってしまって
私は広場にひとり立ちつくす
デパートもホテルも
文化会館も学校も
集合住宅も
崩れはじめている
すべてはほろびへと向かう
人びとのいのちと
人びとがつくった都市と
ほろびをきそいあう
ストロンチウム90 半減期 29年
セシウム137 半減期 30年
プルトニウム239 半減期 2万4000年
セシウムの放射線量が8分の1に減るまでに90年
致死量8倍のセシウムは90年後も生きものを殺しつづける
人は100年後のことに自分の手を下せないということであれば
人がプルトニウムを扱うのは不遜というべきか
捨てられた幼稚園の広場を歩く
雑草に踏み入れる
雑草に付着していた核種が舞いあがったにちがいない
肺は核種のまじった空気をとりこんだにちがいない
神隠しの街は地上にいっそうふえるにちがいない
私たちの神隠しはきょうかもしれない
うしろで子どもの声がした気がする
ふりむいてもだれもいない
なにかが背筋をぞくっと襲う
広場にひとり立ちつくす
アーサーさんが英語に翻訳した詩は、『ひとのあかし』に収録されています。
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